当たり前の生活を取り戻すために  NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会 川口有美子 1、足かけ3年のお付き合いの中で  古込さんの自立は「家族や病院の理解を得にくい長期入院患者の退院・地域移行」というケースで、私にとっては京都のKさんの独居支援に次いで難しいケースでした。確かH27年春頃フェースブックで古込さんのつぶやきを発見してからというもの、古込さんからは長期入院者の現実をお聞きして驚くとともに、私からは地域で一人暮らしをする重度障害の友人たちの様子をお伝えして、金沢でも同じような暮らしができることを伝えました。 同年10月に広域協会の大野さんに資金援助も含む全面的支援を依頼し、大野さんのご紹介で弁護士の宮本先生が支援に加わりました。私たちは一人ひとり支援者を増やしていき、28年10月20日に「地域で暮らすためにみんなで考える会」を結成しました。その中で、 ・家族のケア、家族との関係 ・病院(医学モデル)vs地域(障害モデル) ・支援の有償vs無償 ・自己決定支援の在り方 ・事前指示書 などを巡る議論を展開しました。それぞれの支援者から多様な考え方を学び合い、大変に勉強になりました。このケースはあらゆる面で条件が厳しく、それでも、単身独居という目標達成できたのは古込さんが絶対に諦めなかったからです。 2、古込さんの支援に関連する用語解説 *古込さんが利用している公的サービス 障害者総合支援法の重度訪問介護(24時間365日)。金沢市が支給時間数を決定。古込さんは自分で無資格の人を広告募集し、面接して雇用して、訓練して利用するという「自薦方式」で介護制度を利用中。住居や生活費は生活保護を受給。訪問診療、訪問看護、訪問リハビリなどの手厚い医療支援を受けて在宅独居が実現している。家族同居の重度障害者も同様に長時間の重度訪問介護を利用できる。事業所が足りないために制度が使えないということを聞くが、「自薦方式」を採れば、全国どこでも事業所の地域でも制度は使える。 *全身性障害者…常時の見守りを必要とする重度身体障害者。 *他人介護…施設や家族ではなく、自宅で他人の介護を受けて暮らすこと。 *自薦ヘルパー…利用者が自分で探してきたヘルパー(無資格でもいい)をCIL等の事業所に登録して利用することができる。登録先の事業所と相談して、利用者自身が時給や日給や募集広告文面を考えて広告を出し、面接をして雇用する。利用者(場合によっては家族)は雇用主として責任をもって指導し、丁寧に未経験者を一人前のヘルパーに育てる。登録先の事業所は、自薦ヘルパーはほかの人には原則派遣せず、その人だけの介助者として固定する。 広域協会では自薦ヘルパーの利用登録を全国的に推進している。全県をカバーしているので、全国どこでも(へき地でも島でも)自薦でヘルパーを使うことにより、介護制度は使えるようになった。 *見守り…1対1でコミュニケーション介助や吸引や体の微調整などを行う。呼ばれたら、すぐに対応する「待ちの介護」。深夜も耳をそばだててすぐそばで待機し、必要に応じてすぐ介護する。「見守り」は全身性障害者の命綱。QOLの向上に最も必要な介護。病院では一人の看護師が入院患者を何名も担当するので「見守り」はできない。入院患者は病院の体制に合わせて療養せざるを得ないので、不満が高じていた。 *病院内でのヘルパーの付き添い…平成30年4月から全国の医療機関に短期入院の障害者(要介護度6)には、重度訪問介護のヘルパーの付き添いが許可されることになった。自費による付添いとは違い、障害者総合支援法に基づく公的介護サービスである。 *長期入院患者の外出支援…長期入院者が院外へ外出(宿泊も含まれる)する際、重度訪問介護サービスを利用することができる。住民票のある市町村に申請し、事前に支給決定が必要。ただし、ヘルパーによる外出支援を病院が許可するのは難しく、実質的に利用できるようにするためには、介護連携加算や看護師による外出支援加算などが必要かと。 *中間施設…入院施設から地域移行する際に短期利用する施設。制度外。本格的に地域移行するための準備や訓練を行う。多くのCILは訓練室を持っている。古込さんは「凪のいえ」を利用し、入院中に2回の外泊訓練、退院後2か月近くを凪のいえで過ごした。 *シフトを組む…自薦ヘルパーの利用者は前月中旬までに、自分で各ヘルパーに都合を聞いてシフト表を作成し、登録先の事業所に提出。自薦ヘルパーの利用者は、ヘルパーの生活や体調を考慮してシフトを組む。 *筋ジス病棟…1964年全国進行性筋萎縮症児親の会の運動により筋ジストロフィー患児等の収容が盛んになり、のちに成人患者も受け入れる長期入院施設へと発展。学校を併設したので入院患者は教育を受けることができた。現在は療養介護病棟。古込さんは医王病院の初の単身退院者。筋ジストロフィー病棟の歴史を立岩真也さんが研究し『現代思想』に連載。 *障害年金…入院中も支払われているが、通帳の管理を家族がしていることが、自立の妨げになってしまうことも。入院中も年金の管理は当事者本人がするようにしたい。 *医療依存度が高い…経管栄養や呼吸器等の管理や投薬など常時医療を必要とすること。医療依存度が高くても地域で暮らす人が増えている。 *広域協会…全国ホームヘルパー広域自薦登録協会(略称:全国広域協会)。当初、介護保険ヘルパーを自薦登録できる広域の事業者システムとして、複数の障害者団体や関係者が集まって非営利団体として立ち上げ(旧名称:介護保険ヘルパー広域自薦登録保障協会)、2003年4月から47都道府県全域で障害者支援費制度のヘルパー制度でもサービスを開始。(2006年より障害者自立支援法)現在、介護保険部門と障害福祉サービス部門がある。古込さんの自薦ヘルパーの登録先。日本全国で介護制度が使えるようにする活動資金援助や、コーディネーターによる24時間の療養相談体制、FBでのグループ指導、ベテラン介護人を長期派遣して、地域で雇用した自薦ヘルパーの指導を行っている。 *さくら会…ヘルパーによる喀痰吸引(第三号研修)の制度化と普及に貢献した。毎月東京で第三号研修を行っている。全国から受講可能。そのほかクラシックコンサートやピアサポートイベントを企画。理事の半数を難病の全身性障害当事者が占めている。正式名称は、ALS/MNDサポートセンターさくら会。 *自立生活プログラム(ILP)…障害者が介護者とともに地域で生活していくためにCILが行っているプログラム。受講後にCIL付属の事業所と契約する。古込さんは金沢にCILを設立したいという希望を持っている。 *この運動をさらに… 上のCIL(障害者自立生活センター)は1962年アメリカのバークレーで起きた学生による抗議運動から始まったが、日本の障害者運動の歴史のこの頃始まり、青い芝の運動から分岐した複数の団体がそれぞれに活動して現在に至る。古込さんの支援者の一人、平井誠一さんは全国障害者解放運動連絡会議(全障連)と自立生活支援センター富山代表。富山市で ICT救助隊主催のイベントで川口が講演した時に出会い、古込さんの支援を依頼した。広域協会はCIL等の事務等を担い障害者運動を縁の下で支えている。橋爪真奈美さんは保険医協会事務局員で井上秀夫先生の教え子、宮本研太弁護士は「公的介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット」のメンバー。田中啓一さんは金沢での元青い芝の支援者で平井さんのご紹介。西田まち子さんは制度外の地域での看取りケアを目指して「凪のいえ」を設立したが、今回は地域移行のための外泊訓練および中間施設として部屋を貸してくださった。地域移行前後の医療面を支えているのは野々市よこみやクリニックの野口晃先生、なないろ訪問看護事業所所長高島久美子さん、 PTの神野俊介さんら専門職のみなさん、そして、金沢大学名誉教授の井上英夫先生や立命館大学大学院の立岩真也先生も古込さんの支援に参与され、運動理論面で応援されるなど、複数の団体や個人による混成チームで支援の考え方も多様であるが、重度障害者の生活をより良いものにしたいという思いは共通している。古込さんの自立で得た知見と支援の輪を全国にさらに発展させて行きたい。